数学的推論が世界を変える

project 52, week 22

最近だとFPGAでTCPのプロトコル処理から全てをやってしまって、CPUに行ったら負けみたいな世界がだんだんと表に出てきている。データベースやインフラ、プログラミング言語の技術は徐々に話題になってきていて、どういうコンピューティング環境なのかは見えてきた。
しかし、そこで動いているという肝心のアルゴリズムが分かっていない。どうやら数学できる人や、理論物理をバリバリやってた人なんかがある日急に転職して年間で何十万ドルとか何百万ドルを稼ぎ始める。うーん怖い世界、未知の世界。
どうやら世界中のデータを集めてきて機械学習をやったりムズカシー計算でデリバティブのお値段を評価したり…コールだのプットだのユーロピアンだのどうのこうの。

数学的推論が世界を変える―金融・ゲーム・コンピューター (NHK出版新書 394)

数学的推論が世界を変える―金融・ゲーム・コンピューター (NHK出版新書 394)

というところに、ふっと小島寛之さんの日記で紹介されていたので思い切って買ってみたのがこの本だ。どうせ積むんだから買ってもね…ということはなく、まあ新書を読むようにしているというだけだけども。


この本のすばらしいところは、金融とゲーム理論ゲーム理論とコンピューターはそれぞれ関係ありそうだとは分かっていたものの、それが具体的にどういう関係にあるかを素人にも分かりやすく説明してくれたことだ。ふとすると専門書を集めて読んだり、ややこしいギリシア文字やら何やらと格闘しなければいけなかったのだが、本書では細かい理論の理解なしでも分かった気にさせてくれる、いざというときにより詳しく調べる手掛かりを用意してくれるので素晴らしい入門だ。

具体的には、金融は今やコンピューターによる自動取引がレイテンシの面で絶対的に有利なので、人間が介在する余地はほとんどなくなってきている。じゃあその自動取引がどうやって動作するかというと、ゲーム理論をもとにアルゴリズムを組み立てる。90年台の各国の通貨危機を理論的に説明できるらしく、それを様相論理を使ってコンピューターに投資すべきリスク商品を自動的に決定させる。マーケットはサンタフェ問題とは逆で、いかに早く勝ち馬に乗るかが勝負なので、「誰が何を知ってどう考えているか」を組み込める様相論理は非常に優れている。で、様相論理は計算可能なのでコンピュータープログラムで実装する。そうすると自動的に金を増やす機械が出来上がる。

僕だけかもしれないが、何の役にも立たないとずっと思っていた述語論理やゲーム理論が実際に応用されて市場で勝ち残る仕組みが解説されているのが面白くて、すぐに読んでしまった。学校で習ったことが役に立たないとか、大学で研究していることがお金にならないとか社会で役に立たないと諦めかけている人がいたら是非とも読むべきだ。