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人はなぜ逃げ遅れるのか

あろうことか僕も11月で 21歳(15進法で)になってしまった。まあなんとなくいい機会ということで乞食リストを晒してみたところ、ありがたいことに id:ymotongpoo 君からプレゼントをいただいたので早速読んだ。人はなぜ逃げ遅れるのかという端的な問いに始まって、災害とは何か、いかにして災害を防ぐかについて様々な側面からの分析

人はなぜ逃げおくれるのか ―災害の心理学 (集英社新書)

人はなぜ逃げおくれるのか ―災害の心理学 (集英社新書)

著者の専門は防災心理学で、まあ防災心理学というくらいで、この本が出版された時点で30年近くずっと防災について研究をしてきた専門家である。おそらくは彼の研究の集大成に近いものがあるのだろう(もっと様々な成果があったらすみません)。気をつけてもらいたいのは、この本の初版は2004年に出ているということだ。従って東日本大震災に関する記述は全くない。

それにもかかわらず、さまざまな災害やアクシデントの事例で人間の心理や、どういう考えや行動をした人が助かったのかが書かれていて、結局はケースバイケースなんだけども油断せずに自分で考え抜いた人が生き残ったよねという感じであった。ただしく逃げるには訓練や心構えが必要だけど、ちょっとでも何かあったらすぐ逃げるのは割に合わないという事実や心理もちゃんと説明していて、文章は多少冗長ではあったものの後半は慣れた。

東海地方の人たちの地震耐性や心構えはよくできているが、もともと1970年代だかに中国で地震の予知ができたぜーいという話を真に受けて日本でもそれ前提に大震法というのが制定されて、それを根拠に、東海地震に対して巨大なリソースが投入された。今でもこの法律は少しずつ改正され…ているんだっけか?

とにかく、この本を一番読むべきなのは企業のセキュリティ担当だろう。セキュリティインシデントに日々脅威を感じ仕事をしているとどうしてもコスト・損失・機械損失・リスクを鑑みずにセキュリティガイドラインをとかく安全サイドに倒して運用しがちだがそれでは困るという問題を考えるのにちょっとした助けにはなるだろう。

さらに教授は、災害時のパニックに対する言説に疑問を呈する。パニックになる条件は

  1. 緊迫した状況という意識、驚異が共有さらている
  2. 危険を逃れる方法があると思える
  3. 脱出は可能だが安全は保証されていないという不安
  4. 正常なコミュニケーションが絶たれている

であり、これらの条件が整うと人々が一斉にパニックになる。しかし、災害の原因をパニックに見出すのは思考停止であり、この条件が満たされてしまった本当の原因を分析しないことには何の対策にもならないと一刀両断である。

また、興味深(くな)かったトピックとして、どのような種類の人間が生き残るかについて論じた部分がある。結論はつまり体力のある若い人または富のある人が多いということだ。たとえば阪神大震災では死因の多くが圧死だった。誰もが寝ている時間に、起きる間もなく家が崩れてしまうのである。当然、崩れにくい鉄筋の丈夫な家に住むためには財力が必要で、…という話になるだろう。
他にも、洞爺丸事故でのわずかに生き残った人の事例をとりあげ、生存に必要なのは冷静な状況判断をする知性と果断な行動をする勇気だと述べている。他には、被曝したものの子供を心の支えにして生き抜いた人の話がでてきて、子供を思う心や生きる気力が大切なんだと精神論になるところもあったり…これは被爆直後に疎開先に避難することで被曝を最低限にとどめることができたのが勝因ではないかと私なんかは思うのだが。事実広島市内に残った夫は原爆症で亡くなったそうであるし。

何より面白いのはこの本の結びである。災害が何を引き起こすかというと、その社会の変化を加速するというのだ。下り坂にある社会や国に災害がおきるとコミュニティの散逸が起きてしまうし、大火を機会に都市を再開発したロンドンやリスボンの形が今も残っている。つまり、日常を正しく生きて自分たちの社会や経済が発展し続けることこそ最高の災害対策であり、復興への近道なのだ。