技術を実用化するということ

技術を実用化するということについて、真剣に考えれば考えるほど分からないことばかりが出てくる。よく基礎科学の分野で何の役に立つかわからないので仕分け対象になってしまうとか、浮世離れした数学者はこの世に必要なのかといった問題で、その技術とか科学は何のためにあるのか?いまそこに投資する価値はあるのか?という至極簡単な問題に到達する。
簡単に言えば何がなんの役に立つのか全くわからない、「生まれたばかりの赤子がなにを成し遂げるのか分かりますか?」という偉人の言葉をどこかで思い出す。

Evolution by Stupidiotic

岡野原さんが書いているように現実世界の問題を解決して、この社会を一歩でも改善すればその技術は役に立った、実用化に成功したということだと思う。そのための経路は沢山あって、OSSの実装から始まるものもある。論文から始まるものもある。そしても、最初にアイディアを誰かに伝えることが第一歩というとてもいい話だ。

私は分散システムの世界の人間を自負しているので、ここ数年で学んだことがある。アカデミアはときに難解になりすぎて現実世界から遠く離れていってしまう場合がある。現在の某広告会社、某流通書店などが画期的な分散システムの実装を世に発表してもうすぐ10年が経とうとしているが、彼らがそのシステムを試行錯誤しながら開発していた頃の状況というと1990年代から2002にかけての時代になるだろう。当時の分散システムのアカデミアというと、私はその場にはいなかったが伝え聞く限りは空理空論で、問題を解決するために問題を作り出していたと聞く。
その頃広告会社や流通書店は、自分たちの問題を解決するためにどうしたかというと、まずアカデミアに興味を持てなくなった分散システムの研究者たちを多く雇い、1990年ころまでには出尽くした理論を使って彼ら自身の問題を解決するためのシステムを作った。それが検索インデックスであったり、分散ストレージであったりするわけだ。こうして1990年代には誰が必要とするか全くわからなかった技術が、密室の中で実用化されていった。

実はそういったことはそれ以前にも起きていたように思う。某電話会社で開発されたOSや、某電話会社で開発されたコンピュータ、国勢調査の集計のために開発されたシステムなど…実世界の問題を解決するために密室の中で論文から実装へと変貌を遂げた技術も多くある。実用化に至った彼らが持っていて、実用化できなかった側が持っていなかったものとは何か?今でもそれを考えることがある。