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一次情報を確認しなければ信頼性のある記事にはならない

こんばんは、やっと先週ガノンの打倒という宿願を果たし、ハイカラシティからもいささか足が遠のいてしまった私であるが、なんとか季節の変わり目にも風邪を引かずに過ごせている。読者諸賢はいかがお過ごしだろうか。はや4ヶ月、1年の1/3が過ぎてしまったが、先日の大🔥炎🔥上🔥騒🔥ぎで2017年のクラウドを何だか占い損ねた件を覚えておられるだろうか。これが公共のメディアに書く価値があるどころか、記事で取り上げられた会社の名誉や主張を歪曲しかねないものであったことを。

本日、友人に教えられ、同じ記者が同様に見過ごせない記事を書いたことを知ったので、いっそ皿まで、いやとりあえず再度批評することとしたい。それがこれである。リンクを踏んでPVに貢献することは結構だが、後悔するのでやめておいた方がよい。

it.impressbm.co.jp

リンク先を読んでない方は、次の指摘からもおおよそのクオリティがおわかりいただけるだろう。

この平氏を直接は私は存じ上げないが、Redhat Linuxに非常に精通しており、恵比寿でコンピュータ・ソフトウェアに関する仕事をしているということは事実のようだ。

AWSとの戦略的提携を発表、OpenShift Container PlatformからAmazon Redshift、Amazon AuroraなどAWSのマネージドサービスがダイレクトに利用可能に

これが平氏の指摘であるが、AWSRedhatはもともと戦略的提携をしており、双方の公式発表をみても Red Hat and AWS Extend Strategic Alliance to Package Access to AWS Services Within Red Hat OpenShift , Red Hat and AWS Extend Strategic Alliance to Package Access to AWS Services Within Red Hat OpenShift と、いずれも "Extend Strategic Alliance" という表現を使っている。これは、素直に英語を読めば「もともと戦略的提携をしていたが、提携を拡大しOpenShiftからAWSを使えるようになった」という話になる。まったく提携していなかった2社が提携を始めるわけではないので、これではニュースバリューを偽って誇張している表現である。

これまでどのような提携をしていたかは、Redhatが出しているフォローアップの記事 AWS and Red Hat -- Digging a little deeper を見ればすぐに分かる。本文の早い時点で "March 2010 was an exciting month in the collaboration history of Red Hat" (2010年3月はRedhatの歴史上とてもエキサイティングな月だった)と書かれており、ここからAWSRedhatの提携が始まったことがわかる。具体的にはEC2のMarketPlaceでRedhatサブスクリプションつきのイメージが買えるようになったのだと記憶している。こちらの記事 - AWS Partner SA ブログ: AWS上のRHELのサポート体制とアップデートサーバー は2015年であるが、その内容がわかりやすく日本語で書かれている。また、今回の提携拡大の伏線としては Deploy Red Hat OpenShift on Amazon Web Services | AWS Partner Network (APN) Blog が分かりやすい。AWSが大好きな顧客の声を汲むなら、「ここまで来てるんならもういっそAWS隠蔽して適当に使えるようにしてくれよ!」だろう。

次はこちらだ。

コンテナベースでクラウドネイティブなアプリケーション開発環境「Red Hat OpenShift.io」を開発者向けに無償提供

OpenShift.io The Gathering – Summit 2017 – Developer Tools, Overview and Roadmap Part I には、

OpenShift.io is the next generation OpenShift platform, based on OpenShift 3, for building and running applications in the cloud.

と書かれている。ここで重要なのは "building and running applications" という部分で、正確に訳すなら「アプリケーションの開発と実行」である。つまり、OpenShift platformはアプリケーションの開発環境と実行環境を兼ね備えたものであり、開発環境だけのものではない。この記事を丁寧に読んでいけば、OpenShift(コンテナのオーケストレーション技術)がどのようなものかはすぐに分かるだろう ( 新野さんの記事も非常に分かりやすい )。2017年のクラウドを占ったときの「これからはDevOpsがクラウドで重要になる」というフワッとした指摘を奇しくも裏付けた形になり、それをベースに記述を肉付けしたら伏線を拾ったもっとよい記事になったであろうに、勿体ない。

Disney、Pixarなどのユースケースに見るOpenStackおよびコンテナ関連のビジネスの拡張

これは、どうしてこういう表現になるのか分からない。残念ながら私も現地には行っていないので分からないが、おそらく Disney Studios and Pixar use OpenShift to accelerate the delivery of platforms and services のセッションを指しているのだろうと思うが、少なくともOpenStackという文字は文中になく、むしろOpenShift推しなのが分かるだろう。また、セッションの検索 をしてみても、OpenStackは32件、OpenShiftは95件のセッションがマッチした。これをみても分かるようにOpenStackは下火で、OpenShiftとコンテナオーケストレータの採用が拡大している傾向の方がニュースとしては正確である。ひょっとしてOpenShiftとコンテナとOpenStackの関係が理解されていないのでは…とうっかり疑ってしまうので、その関係がよく整理されている OpenStack、Docker、OpenShiftの関係を理解する! レッドハット朝活セミナーのご紹介 | RED HAT OPENEYE を紹介しておこう。

そして、推測にみちたこの文章

今回、その距離を一気に縮める提携を発表したことは、AWSと近しい関係を構築するほうがメリットが大きいと判断したといえる。

は、「ただのパートナー→戦略的提携」という前提にもとづいているが、もともと戦略的提携していたのだからこの文章はほとんど意味がない。私の考えでは、今回のサミットで特に距離を縮めたということは別になくて、その傍証として、キーノートにAWSからの有名人(例えばWerner VogelsやHamilton)どころか、誰もキーノートで話していないことを挙げておこう。しかも、セッションスピーカーで検索してもAWSのスピーカーが3人しか見つからなかったことも付け加えておこう。

で、「プライベートクラウドパブリッククラウドの境界線がより曖昧になっている流れ」とは一体何なのか。ハイブリッドクラウドユースケースが増えていることを指すのだろうか。境界線が曖昧とは一体どういう意味なのだろうか。少なくともシステムの管理主体と利用者がはっきりしている限りは境界線が明確にあると思うのだが、考えれば考えるほど意味がわからない。

次は「エンタープライズ企業によるDockerの採用が増えるにしたがい、オープンソースコミュニティを重視するスタイルをビジネスと両立させることが難しくなってきたのも事実だ」という表現だ。何が難しいのだろうか。私は仕事で体感したから知っているが、難しい理由は具体的にはモノによって様々に異なっており一般論として述べるにはまだ十分早いと思う。なぜなら直後に記事でべた褒めしているRedhatサブスクリプションモデルで成功しているからだ。

いちおうDocker CEO 退任の挨拶から以下の文を引用しておこう。

Docker has the potential to become not only one of the most enduring technology companies, but also a transformational platform, technology, and movement; I can’t think of a better or more qualified individual to lead us to that future than Steve.

オープンソースソフトウェアでビジネスをするのは難しいということであるが、さてここでCrunchBaseのランキングを指摘しておこう。この記事で取り上げた Docker (26位) よりも Hortonworks (152位) よりも、第2のRedhatに近い存在がいる。 "Open Source" "Enterprise Software" でカテゴリを any 検索するとすぐに出てくる、12位の、先日IPOしたヤツである。

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まあこのランキング、IPOしてるしてないとかゴッチャだしRedhatは登場しないし、IBMがかなりの下位だったりと独自のランキング手法であるが、今調べたら時価総額で3.5倍程度差がついているこの会社をスルーしてHortonworksを取り上げるのは数字上はかなりアンフェアだと私は思う。ちなみに、150位くらいまでに出てくるOSS企業は MongoDB (56位), Pivotal (128位), Elastic (168位), Databricks (182位), あたりがある。